基本方針
―免疫学は元来感染症との闘いの中から生まれた学問で、私たちは最終的に治療に結びつけることを目標に研究を行っています。―
当研究室では、免疫の司令塔である樹状細胞に焦点をあて、自然免疫-獲得免疫-記憶免疫の連鎖機構の解明、疾患病態における免疫の異常や破綻に関する研究を行っています。同時に基礎研究の成果を踏まえ、がんや感染症などの難治性疾患の予防や治療法の開発研究を推進しています。Basic research-Translational research-Clinical studies、”From Bench to Bedside”, “From Bedside to Bench” のサイクルを回し、問題点を抽出し、課題解決を目指します(図1)。
人間の免疫システムは、新型コロナウイルス感染症を始めとする細菌やウイルスなどによる感染症や、がんから自身を防御する働きをしています。一方では、自己と非自己を区別する能力により、自己成分に対する自然な免疫寛容を生み出し体内の安定性を維持します。がんは、正常な細胞が遺伝子変化を受け、増殖の制御を失うことで発生します。がん細胞は正常細胞由来であるために正常細胞と見分けがつきにくく、異物として認識し排除する免疫系の能力が十分に機能しません。一旦免疫系ががん細胞を自己構成成分であると誤って認識すると、がん細胞は免疫系による攻撃を回避することができます。免疫による監視はまた、がんの遺伝子変異の蓄積、がん細胞の不均一性によって徐々に脆弱化します。最初は免疫により認識され排除されていても、次第に免疫原性の低いがん細胞が選別されて生き残り、最終的には免疫抑制機構を獲得し、免疫系による監視を回避し進行していく、いわゆる“がんの免疫編集”が起こります。このようながんの進行と免疫の関係、あるいは免疫チェックポイント阻害剤などのがん治療の治療効果を予測し、新たな治療を開発するためには、腫瘍微小環境やリンパ組織、がん細胞のみならず、多種の免疫細胞、非免疫細胞(血管、リンパ管、線維芽細胞など)の複雑な関係を解析し、紐解く必要があります。単一の細胞、単一の分子の解析に代表される、この十数年のハードとソフトの両面での技術革新により網羅的な解析やシミュレーションが可能になってきています。免疫細胞治療研究チームでは実験生物学のエビデンスを重視しながらも、新規解析法を取り入れ、研究を進めています。